5節 アローの不確実性定理

あるクレタ人の有名な学者はかつて次のように述べた。

クレタ人は必ず嘘をつく。」

 さてよく考えてみてほしい。仮に学者が正しいとすれば,クレタ人である学者も嘘をついている事になり,クレタ人は嘘をつかない事が正しくなる。ここで矛盾が生じるので学者が間違っていると考えられるが,学者が違っていればクレタ人は嘘をつかないが正しくなり,学者も正しいという帰結になるので矛盾が生じる。この命題に正解はない。

 経済の世界もこれと同じ事が言える。社会の人間であるプレーヤーは何が正しいのかを常に考え行動を起こしている。だがいつも正しいモノを見つけられず失敗を繰り返している。つまり経済そのもの矛盾に満ちた命題で形取られている。

 今日本に3種類の人間がいるとする。仮にA君,B君,C君とする。世の中に今3つのモノa,b,cしか存在しないとして,A君はa>b>c, B君はb>c>a, C君はc>a>bの順番で好んでいる。この社会で1つだけのモノが与えられるとしてそのモノを選ぶために選挙をすれば三者のどれが選ばれるだろうか?実はこれを行うとa>b>c> a>b>c・・・・・と無限に続く。つまり矛盾が生じる。これをアローの不確実性原理という。

 多数決を取ればうまく決まっているように見えるが決めるプロセスを変えれば結果も変わっていく。経済の政策を考えたり理解を深めようと考えたりする際に1番重要な事は,経済には正解がない事を前提に考える事が必要なのである。

 次回はホットな話題である年金問題について解説する。