6節 パレート最適

例えば,A君が10円損をしてBさんが1万円得をする政策が存在するとすれば,政府は政策を実行すべきであろうか?

 難しい問題である。10円損失するA君の苦しさは,1万円得をするBさんの幸福とどちらが大きいのか比較する事ができないからである。

 解決方法はなんであろうか?1つの答えは所得再分配をする事である。これは政府の行う主要な役目の1つである。つまりBさんからA君に10円再分配させれば,A君は損をする事なくBさんが9990円得をする政策を実行する事ができる。

 所得再分配を日本全体で行うためには,まず弱肉強食の政策を作り能力のある者の才能が最大限に発揮できる社会にする。能力のある者が稼ぐので国内には沢山の余剰なお金が生じる。それを政府が税と補助金を用いて競争に敗れた者に再分配すれば,規制する場合よりも全員の所得を上げる事も可能となる。

 但し,今の話には1つ落とし穴がある。お分かりだろうか?

 余剰に稼いだ分をすべて税で徴収されるとなると,能力のある者は始めから努力をしなくなるので,その政策の本来の目的は果たせない。ではどうすればいいだろう?

 始めは,税をかけずに稼いだ時点で税をかければ解決する?

 そうすれば,その時のみは税を徴収できるが,次回から国民は政府を信用しなくなる。

このような政策を時間の非不整合的な政策と呼ぶ。

 政策等で他の人々いずれかの効用(幸せ)を下げずに,1人以上の効用を上げる事ができればパレート改善したという。そしてこれ以上パレート改善できない状況をパレート最適という。

完全に自由競争に委ねるとパレート最適になる。なぜか?

無駄がある企業は自由競争では淘汰をされ効率的な企業のみが生き残るからである。またパレート改善できる限り新たな利益が生まれるのでパレート最適になるまで競争が続く。

但し,弱者が大損をしている状態でパレート最適になれば,公平性の意味では,パレート最適は望ましくない。あくまで効率性の意味のみを追求している。政府の所得再分配により全員の所得が等しい時点でパレート最適になれば効率性でも公平性でも望ましい状態となる。但し,政府が介入した時点で競争が生まれないので,パレート最適が達成されなくなる。

つまり,公平性と効率性は同時に達成する事ができない。このような状況をトレードオフという。経済がなぜ難しいかというと様々な所にトレードオフが存在してどちらを選べばよいのか分からないからである。その答えはその時代に存在する人々によって変わる。その答えを出していくのが政治なのである。

次回は一般均衡理論について簡単に説明する。りんごの値段が下がるとりんごの需要は短期的には増加するが,長期的にはどうだろうか?長期的にどのような影響を及ぼすのか?そのプロセスについて次回説明する。