11節 限界性

 今回は限界性について説明する。前回の利益の節でも限界性を用いた説明を試みたが,経済学の理論には,必ず限界性の概念が登場する。限界性とは簡単に言えば変化量を示している。

 つまり,あるモノが微少の変化をした際にあるモノがどれくらい変化するのかを示す。例えば,労働者を1人増やした時の利益の変化,りんごを1つ追加的に食べた時の効用の変化等である。これをりんごによる効用の限界変化量と呼び,数学的には効用をりんごで微分をすると言う。

 なぜ限界性が重要なのだろうか?

 限界と対象的に見られる用語が平均である。りんご1個から得られる効用(幸せ)の平均より,追加的な1個のりんごから得られる限界的な効用の方が分析には適している。この限界効用がりんごの価格より大きい限り,消費者はりんごを購入するからである。

 以前説明したように,りんごの個数を重ねるにつれて,限界的に得られる効用は逓減する(お腹がいっぱいになるから)。これを限界効用逓減の法則という。

 価格が一定の場合,価格より限界効用が高い人はりんごを購入し,限界効用がりんごより高い人も価格と限界効用が等しくなるまでりんごを購入する。よってりんごの価格が同じ場合,りんごからより多くの効用を得られる人ほど沢山りんごを購入する。

 消費者は常に,あと1個追加的に購入するか否かで悩む。このとき,その1個から得られる限界効用が価格を上回っているか否かを無意識に考えているのである。

 因みに,限界効用はりんごの個数を重ねるにつれて逓減すると説明したが,りんごを無限個購入した時,無限個目のりんごから得られる限界効用は0になる(食べられなくて捨てるから)。

 では,ある個人がりんごから得られる効用の合計はどのように求めればよいのだろうか?

 1個1個のりんごから得られる限界効用をすべて足しあわせれば求められる。この足しあわせの作業の事を,限界効用をりんごで積分するという。

 このように微分積分は両者共に使用する場合が多々ある。経済理論の分析に最も必要な数学的手法は微積分だが,経済の理解をするためには,できるだけ数式を用いず言葉で理解する事が重要である。なぜならば微積を理解する事と経済を理解する事は全く別物だからである。

 経済理論でいう数学は手段であり決して目的ではない。なので,例え遠回りになったとしても数学なしで経済を理解する事は充分可能である。

 次回は比較優位について説明する。先進国同士が貿易するのか,発展途上国より農業の効率がよい日本が農産品を輸入する要因の背景となる考え方である。