22節 グレシャムの法則

中古車の購入の際に注意すべき点はどこか?

 車の知識のある人なら自分で確認をして品質をチェックできる。但し,大多数の知識のない人々にとっては,店員のコメントと見た目,乗った際のエンジン音や走り心地で判断しなければならない。

 ここで問題なのは,店員と購入者との情報量の差である。店員は都合の悪い部分を隠し都合のよい部分のみを述べる。またポンコツ車でも見た目を綺麗にする事は容易である。エンジン音等も相当ひどくない限り判断は困難である。

 つまり,容易にポンコツ車を買わされる可能性が高い。

 このような事実を知ると,購入者はすべての車に疑いをかけ,すべての車に対する限界効用は下がり,本来なら購入したはずの車も本来の価格では購入しなくなる。勿論販売者が価格を下げれば解決するのだが,価格を下げられない販売者(つまり本当に価値のある車を販売している人)は,安くできないかつ売れないので市場を撤退する。すると中古車市場のポンコツ車の比率が上がる。そうするとさらにすべての車に対するポンコツ車の疑いが強くなり,すべての車の限界効用が下がる。この過程を繰り返すと,品質のよい車を販売する販売車はすべて市場を撤退して,ポンコツ車だけが市場に残る。

 このように品質の悪いモノが品質の良いモノを駆逐する原理をグレシャムの法則という。

 だが実際は,中古車市場にも良質の車は多数存在する。その理由は何であろうか?

 それは,ブランドや保証によるものである。大手の中古車販売会社がポンコツ車を高値で売れば,信用が落ち会社の存続が困難になる。よって大手になればなるほど車の品質は保証されている可能性が高い。さらにガリ○ー等は,中古車に10年保証をつけているが,これはポンコツ車につけると販売側が損をするので,高品質の車につけている可能性が高い。よって保証それ自体が車の品質の高い事を示している。質の悪いモノの事を一般的にレモンという。

 このように何かを使って,あるモノの品質を保証する効果をシグナリング効果という。

 代表的な例として,学歴が挙げられる。

 名門大学を卒業する事は,その人が能力の高い事を示している可能性が高いので,就職活動の際,企業は学歴をシグナルとして能力を確認する可能性が高い。

 シグナルを提示する事でグレシャムの法則の問題を解決できる。

 次回は赤字の企業が操業を停止しない理由について説明する。